履歴書の職歴欄における「役員」の正しい書き方。「就任・退任」の使い分けと経営者視点のアピール術
会社役員(取締役、監査役など)としての経験がある場合、または会社を経営していた経験がある場合、履歴書の職歴欄をどのように書くべきか迷う方は少なくありません。一般社員とは雇用契約の形態が異なるため、「入社」や「退社」といった通常の用語を使ってよいのか、どのような表現がビジネスマナーとして適切なのかという疑問が生じます。
役員経験は、経営視点や高度なマネジメント能力を証明する強力なキャリアです。だからこそ、正しい用語を用いて正確に記載し、その実績を効果的にアピールすることが重要です。ここでは、役員経験者のための履歴書の書き方や、ケース別の記載例、そして採用担当者に響くアピール方法について詳しく解説します。
役員の経歴は「入社・退社」ではなく「就任・退任」を使います
履歴書を作成する際、最も注意すべきなのが用語の使い分けです。会社員(労働者)は会社と「雇用契約」を結んでいますが、役員は会社と「委任契約」を結んでいます。この契約形態の違いにより、履歴書で使用する言葉も異なります。
- 役員になった時:「就任」を使用します。
- 役員を辞めた時:「退任」または「辞任」を使用します。
一般的に、任期を全うして辞めた場合は「退任」、任期途中で自らの意思で辞めた場合は「辞任」を使いますが、履歴書上では「退任」と記載するのが一般的で角が立たない表現とされています。また、会社員から昇進して役員になった場合は、まず「入社」を記載し、その後に「取締役就任」と時系列で記載することで、キャリアのステップアップを明確に伝えることができます。
【ケース別】職歴欄への具体的な記入例とレイアウト
役員になった経緯によって、適切な書き方は異なります。ご自身の状況に合わせて使い分けてください。
1. 平社員から昇進して役員になった場合
新卒や中途で入社し、社内で実績を積んで役員に昇格したケースです。この場合は、入社から現在までのストーリーが見えるように書くことが重要です。
【記入例】
平成20年 4月 株式会社〇〇 入社
営業部に配属
平成30年 4月 営業部長に就任
令和 2年 6月 取締役に就任(営業本部長を兼務)
令和 5年 6月 任期満了につき退任
令和 5年 7月 同社 退社
※役員を退任し、同時に会社も辞めた場合は、上記のように「退任」と「退社」を分けて書くか、あるいは「任期満了につき退任し、退社」とまとめても構いません。
2. 役員として外部から招聘された場合
最初から役員待遇で入社した場合は、「入社」という言葉を使わず、最初から「就任」と記載するのが正確です。
【記入例】
令和元年 5月 株式会社△△ 取締役に就任(CTOとして技術部門を統括)
令和 4年 5月 一身上の都合により辞任
3. 会社を設立し代表取締役などを務めた場合
自分で起業した、あるいは家業を継いで代表になった場合は、「設立」や「就任」を使います。
【記入例】
平成25年 4月 株式会社□□ 設立
代表取締役に就任
令和 3年 3月 同社 解散(あるいは他社への事業譲渡により退任)
退任理由の書き方と「任期満了」の活用
役員を辞める際の理由は、採用担当者が特に気にするポイントです。一般社員の「一身上の都合」にあたる表現として、役員の場合は以下の書き方が用いられます。
- 任期満了により退任あらかじめ定められた任期(通常2年など)を終えて退く場合です。これは「責任を全うした」という非常にポジティブな理由として受け取られます。
- 一身上の都合により辞任任期の途中で、病気や家庭の事情、あるいは新たなキャリアへの挑戦などの理由で辞める場合に使用します。
- 会社解散により退任会社を畳んだ場合などは事実をそのまま記載します。
「解任」という言葉は、法的な手続きを経て強制的に辞めさせられた場合(クビ)に使われるため、履歴書には記載しません(通常は辞任の形をとることが多いため)。
役員経験を「経営視点」としてアピールするポイント
役員経験がある人材に対し、企業側は「高い視座」と「経営感覚」を期待します。一方で、「現場仕事ができるか」「プライドが高くて扱いにくいのではないか」という懸念も同時に抱きます。
書類選考を通過するためには、以下のバランスを意識して職務経歴書や自己PRを作成してください。
- 経営数字へのコミットメント部門の売上だけでなく、全社のPL(損益計算書)やBS(貸借対照表)を意識して経営判断を行っていた経験は、管理職以上のポジションで高く評価されます。
- 現場との橋渡し能力「役員室にいただけ」と思われないよう、現場の社員とどのようにコミュニケーションを取り、組織を動かしてきたかという具体的なエピソードを盛り込みます。
- 謙虚さと柔軟性「過去の役職」に固執せず、新しい環境でゼロから貢献したいという謙虚な姿勢を示すことが、採用担当者の警戒心を解く鍵となります。
まとめ
役員の経歴は、書き方一つで「重厚なキャリア」にもなれば「使いにくい経歴」にも見えてしまいます。
「就任」「退任」といった正しい用語を使い、経営者としての視点と実務家としての能力の両方をアピールすることで、即戦力としての信頼感を勝ち取ってください。正確で品格のある履歴書作成が、エグゼクティブ層や管理職としての再就職を成功させる第一歩となります。





