履歴書の「返却」は要求できる? 応募書類の個人情報と企業の取り扱い
転職活動において、不採用となった場合、「提出した履歴書や職務経歴書は返却してもらえるのだろうか?」と疑問に思う方は少なくありません。
履歴書には顔写真や住所、経歴といった重要な個人情報が詰まっているため、返却されないとなると、その後の扱いに不安を感じるのも当然です。
しかし、応募書類の「返却」については、応募者が知っておくべき「企業の事情」と「法律上のルール」があります。
ここでは、履歴書の返却に関する疑問と、個人情報の取り扱いについて詳しく解説します。
1. 結論:企業に履歴書の「返却義務」はない
まず、最も重要な結論から言いますと、法律上、企業が不採用者の応募書類(履歴書など)を返却しなければならないという「義務」はありません。
応募書類の返却は、あくまで企業の「任意」による対応(サービス)の一つです。
したがって、応募者側から「返却してください」と強く要求できる権利は、原則としてない、と認識しておくことが大切です。
2. なぜ返却されないケースが多いのか(企業の事情)
「個人情報なのだから、返却するのが当たり前では?」と思うかもしれませんが、企業が返却に消極的なのには、主に二つの実務的な理由があります。
理由1:コストと手間の問題
人気企業や大規模な募集の場合、応募者の数は何百人、何千人にもなります。
その全ての不採用者に、書類を封筒に入れ、宛名を書き、郵送費を負担して返却する作業は、企業にとって非常に大きな「コスト(人件費・郵送費)」と「手間」になります。
理由2:個人情報漏洩のリスク
これが最大の理由です。もし、返送する過程で「宛名を間違えて、別の人に送ってしまった(誤送付)」、あるいは「郵送事故で紛失した」となれば、それは企業にとって重大な「個人情報漏洩事故」となります。
返送するリスクを負うよりも、社内で責任を持って「確実に破棄(廃棄)」する方が、企業にとっては最も安全な個人情報の管理方法となるのです。
3. まず確認すべきは「募集要項」の記載
応募書類の扱いについては、必ず「募集要項」や「採用ページのプライバシーポリシー」などに記載があります。応募する前に、ここを確認するのが基本です。
ケース1:「応募書類は返却いたしません」と明記されている
これが、現代の採用活動において最も一般的なケースです。
この場合、企業は「返却しない代わりに、責任を持って破棄します」と宣言しています。
これに同意して応募している以上、後から返却を要求するのはマナー違反であり、「募集要項を読んでいない人だ」というマイナスの印象しか与えません。
ケース2:「返却希望者はお申し出ください」と記載がある
企業が返却に対応しているケースです。この場合は、募集要項の指示に従って、返却を依頼すれば問題ありません。
ケース3:何も記載がない
この場合も、原則として「返却されない可能性が高い」と考えておくのが無難です。
4. 返却されない履歴書(個人情報)はどうなるのか?
「返却されないなら、個人情報が漏洩するのでは」と不安になるかもしれませんが、心配は不要です。
まともな企業であれば、「個人情報保護法」に基づき、応募者の個人情報を厳重に管理する義務を負っています。
返却されない応募書類は、採用活動が終了した後、企業が定めた社内規定(例:「選考終了後、〇ヶ月以内に」など)に基づき、シュレッダー処理や専門業者による溶解処理といった、復元不可能な方法で適切に破棄されるのが一般的です。
5. それでも「返却」を依頼したい場合の(非推奨な)マナー
「返却しない」と明記されている企業への要求は、印象を悪くするため、絶対に避けるべきです。
もし、どうしても事情があって(例:ポートフォリオの原本など、一点ものの場合)返却を希望するなら、応募の段階で「相手の手間を最小限にする配慮」を示す必要があります。
(方法)「返信用封筒」の同封
応募書類を送付する際に、あらかじめ**「切手を貼り、ご自身の宛名を書いた返信用封筒」**を同封します。
そして、送付状(添え状)に「万が一、不採用となりました折には、誠に恐縮ですが、同封の返信用封筒にて応募書類をご返却いただけますと幸いです」といった一文を添えます。
ただし、これはあくまで「お願い」です。これを行ったとしても、企業側に返却の義務は発生せず、そのまま破棄されるケースも多いことは理解しておきましょう。
6. 結論:返却は期待せず、「データ作成」でリスク管理を
履歴書は「返却されないもの」と考えるのが、現代の転職活動の基本です。
「手書きで一枚しか作っていないから、返してほしい」という事態に陥らないためにも、応募者側ができる最大のリスク管理は、以下の2点です。
- 応募書類は「パソコン(PC)」で作成し、データ(マスター)を保存しておくこと。
- 手書きで作成した場合は、提出前に必ず「コピー」を取り、「控え」を手元に残しておくこと。
返却の有無に一喜一憂せず、ご自身の「控え」をしっかり管理し、次の応募や面接対策に備える方が、遥かに建設的と言えます。





