デザイナーの職務経歴書は「一番地味なポートフォリオ」。採用担当者が評価するフォーマットと書き方の鉄則
デザイナーやクリエイターの転職活動において、職務経歴書は非常に悩ましい存在です。「Illustratorで作ってセンスを見せるべきか、Wordで無難に作るべきか?」「ポートフォリオがあるのに、経歴書でも詳細を書く必要があるのか?」といった疑問は尽きません。
結論から言えば、デザイナーの職務経歴書に求められるのは装飾的な美しさではなく、**「高い情報設計(インフォメーション・アーキテクチャ)能力」**です。採用担当者は、職務経歴書のレイアウトを通じて、あなたの「読み手への配慮(UI/UXデザインの基礎力)」を見ています。
ここでは、Webデザイナー、グラフィックデザイナー、UI/UXデザイナーなどが、書類選考を突破するために選ぶべきフォーマットと、ポートフォリオへスムーズに誘導するための書き方について解説します。
1. ツールは「Word」か「Illustrator」か?
デザイナーならではの悩みですが、作成ツールはどちらでも構いません。 ただし、絶対に守るべき条件があります。
PDF形式で「テキスト選択可能」にすること
IllustratorやInDesignで作成する場合、文字をアウトライン化してはいけません。
企業の採用管理システム(ATS)によっては、書類内のテキスト情報を自動抽出してキーワード検索(例:「Figma」「React」など)にかける場合があります。アウトライン化されていると「白紙」とみなされ、検索に引っかからないリスクがあります。また、採用担当者がURLをコピー&ペーストできないのも致命的です。
一般的な推奨は「Word」ベース
意外かもしれませんが、多くのエージェントや採用担当者は**「Word(またはGoogleドキュメント)等のワープロソフト作成」**を推奨しています。
- 理由1:更新・修正が容易であること。
- 理由2:ビジネス文書としてのマナー(TPO)をわきまえていると判断されること。
- 理由3:デザイン力はポートフォリオで判断するため、経歴書には「読みやすさ(可読性)」だけを求める傾向があること。
「Wordの標準機能だけで、美しく整ったレイアウトを作れる」ことこそが、基礎的なデザイン力の証明になると考えましょう。
2. デザイナーに最適なのは「キャリア式(プロジェクト型)」
デザイナーの評価は「在籍期間」ではなく「何を作ったか」で決まります。
そのため、単に時系列で会社名を並べるのではなく、携わったプロジェクト単位で詳細を記述できる**「キャリア式(プロジェクト型)」**のフォーマットを選んでください。
【構成のポイント】
- ヘッダー:氏名、連絡先、ポートフォリオのURL。
- 職務要約:キャリアの全体像と得意領域(Web、DTP、アプリUIなど)。
- 活かせるスキル:使用ツール、言語、OSを一覧化。
- 職務経歴:プロジェクトごとの詳細(ここがメイン)。
3. 採用担当者が必ず見る「4つの制作スペック」
「Webサイトのデザインを担当」という大雑把な記述では不十分です。採用担当者(アートディレクターや現場リーダー)は、制作環境の解像度を見ています。プロジェクトごとに以下の4点を必ず記載してください。
① 担当領域(Role)
「デザイン」と一言で済ませず、どこまで手を動かしたかを明確にします。
- 情報設計(WF作成)、UIデザイン、ビジュアルデザイン、バナー制作
- コーディング(HTML/CSS/JavaScript)、WordPress構築
- ディレクション、進行管理、クライアント折衝
- 写真撮影、レタッチ、イラスト作成
② 制作環境・使用ツール(Tools)
- デザイン:Figma, Adobe XD, Photoshop, Illustrator
- コーディング:VS Code, Sass, React, Vue.js
- バージョン管理:Git, GitHub
- コミュニケーション:Slack, Notion, JIRA
③ 制作期間と規模
その制作物にどれくらいの時間をかけたか(工数)は、作業スピードを測る指標になります。
- 「制作期間:3週間(デザイン1週間、コーディング2週間)」
- 「ページ数:TOP+下層15ページ」
- 「チーム構成:ディレクター1名、デザイナー1名(自分)、エンジニア2名」
④ 成果(Result)
デザインをビジネスの課題解決と捉えていることをアピールします。
- 「CVRが1.2倍に向上した」
- 「離脱率を5%改善した」
- 「クライアントから『ブランドイメージが一新された』と高評価を得て、継続案件に繋がった」
4. ポートフォリオへの「導線」を確保する
職務経歴書の最大のミッションは、**「採用担当者にポートフォリオを開かせること」**です。
どれほど経歴書が立派でも、作品を見てもらえなければデザイナーの採用は決まりません。
- URLは「一等地」に:氏名の直下や、職務要約の直後など、書類の上部に配置します。
- リンクを有効に:PDF化した際、クリックすればブラウザが開くようにリンク設定をしておきます。
- QRコードも有効:紙で印刷して回覧されるケースを想定し、スマホで読み取れるQRコードを添えておくと親切です。
5. 自己PRで伝えるべき「デザイン思考」
フォーマットの最後にある自己PR欄では、ツール操作スキル以外の「思考プロセス」を伝えます。
- ビジネス視点「ただ綺麗にするだけでなく、ターゲット層やKPIを分析し、目的に沿ったデザインを提案できる」
- コミュニケーション能力「エンジニアと実装可能性について早期にすり合わせを行い、手戻りのないデータを納品している」「非デザイナーのクライアントに対し、デザインの意図を言語化して説明できる」
- トレンドキャッチアップ「日常的にDribbbleやPinterestでインプットを行い、新しいデザイントレンドや実装技術を取り入れている」
まとめ:職務経歴書は「情報の整理整頓」
デザイナーの職務経歴書において、過度な装飾はノイズになりかねません。
余白、文字組み、フォント選びといった「基本」を徹底し、情報を整理整頓すること。そして、あなたの作品が待つポートフォリオへスムーズに誘導すること。
この「情報設計」ができている職務経歴書こそが、プロのデザイナーとして最も信頼されるフォーマットです。WordであれIllustratorであれ、読み手への配慮が詰まった書類で、選考を突破してください。





