役員経験者の転職を成功させる職務経歴書の書き方と経営視点のアピール戦略
役員の職務経歴書は「実務」ではなく「経営課題の解決」を書くことが鉄則です
取締役や執行役員といった経営幹部(エグゼクティブ)クラスの転職活動において、職務経歴書に求められる要素は、一般社員や管理職クラスとは根本的に異なります。現場での実務能力やスキルの羅列だけでは、経営層としての資質を証明することはできません。採用側(株主、オーナー、あるいはCEO)が知りたいのは、あなたが「どのような経営課題に直面し」「どのような戦略を描き」「組織を動かしてどれだけの業績インパクト(利益)をもたらしたか」という経営手腕そのものです。
そのため、職務経歴書では「詳細な業務タスク」を削ぎ落とし、「経営的な成果」にフォーカスする必要があります。担当した管掌部門の規模、動かした予算額、対面したステークホルダー(株主、銀行、監査法人など)との関係性を明記し、自身が経営の一翼を担うプロフェッショナルであることを、視座の高い言葉で表現することが書類選考突破の鍵となります。
管掌範囲と業績へのインパクトを数値(PL/BS)で可視化する
役員としての能力を客観的に証明する唯一にして最強の材料は「数字」です。それも個人の売上目標といったレベルではなく、全社または管掌部門のPL(損益計算書)やBS(貸借対照表)にどのような影響を与えたかという視点での記述が求められます。
【記載すべき数値指標の例】
- 企業規模: 売上高、従業員数、資本金、拠点数、上場区分。
- 管掌範囲: 担当した部門(営業本部、管理本部など)、部下の人数(直下および組織全体)、管理予算規模。
- 業績成果:
- 売上高を3年で150%成長(〇億円→〇億円)
- 不採算事業の撤退と構造改革により営業利益率を5%改善
- コスト削減プロジェクトにより販管費を年間〇億円圧縮
- 資金調達(エクイティ・デット)により〇億円を調達し財務体質を強化
これらの数字を「Before/After」で対比させ、自身が着任してから退任するまでに企業価値をどう向上させたかを明確にします。
与えられたミッションと達成プロセスをストーリーで語る
数字の実績に加え、その背景にある「ミッション(経営課題)」と「解決プロセス」を記述することで、再現性のある経営能力をアピールできます。単に業績が良かっただけでなく、それがあなたの戦略的意図によるものであることを証明するためです。
例えば、「創業期のカオスな状態から組織規定を整備し、IPO(新規上場)準備を主導した」や、「成熟市場における既存事業の再構築を行い、V字回復を実現した」、「M&Aによる新規事業参入を指揮し、PMI(統合プロセス)を完遂した」といった具体的なストーリーです。どのような経営環境下で、どのような意思決定を行い、組織を牽引したかという「経営判断の軸」を示すことで、採用企業は自社のフェーズに合った人材かどうかを見極めることができます。
「逆編年体式」を採用し直近の経営手腕を真っ先に伝える
職務経歴書のフォーマットにはいくつかの種類がありますが、役員クラスの転職においては、直近の経歴から過去に遡って記載する「逆編年体式」が最も適しています。採用側が最も関心を持っているのは、新人時代の下積み経験ではなく、直近で発揮された経営手腕と実績だからです。
書類の冒頭に「エグゼクティブサマリー(職務要約)」を配置し、これまでのキャリアのハイライトと、自身の経営者としての強み(例:ターンアラウンドのスペシャリスト、新規事業立ち上げのプロ、管理部門管掌の守りの要など)を200~300文字程度で凝縮して伝えます。その直後に、最新の役員経歴を詳細に記述し、古い経歴や現場時代の細かい業務内容は簡潔にまとめるというメリハリをつけることで、読み手にとってストレスのない、洗練された書類になります。
自身の「経営者としてのタグ(強み)」を明確にする
役員採用は「何でもできる人」よりも、「特定の経営課題を解決できるスペシャリスト」が好まれる傾向にあります。自身のキャリアを振り返り、自分自身にどのような「タグ」を付けられるかを考え、それを職務経歴書の軸に据えてください。
- CFO(最高財務責任者)タイプ: 財務戦略、資金調達、IPO、IR、M&A
- COO(最高執行責任者)タイプ: 事業推進、業務プロセス改革、組織マネジメント
- CTO/CIO(技術・情報責任者)タイプ: DX推進、技術戦略、システム刷新
- CHRO(最高人事責任者)タイプ: 組織開発、人事制度設計、採用ブランディング
自身がどの領域で最も価値を発揮できるかを明確にし、その強みに関連する実績を重点的に記述することで、ヘッドハンターや企業の経営層からのオファーを引き寄せやすくなります。
退任理由の書き方と守秘義務への配慮
役員の転職において、退任理由は非常にデリケートかつ重要なポイントです。ネガティブな理由(解任、派閥争いなど)は避け、「任期満了」や「経営体制の変更に伴う退任」、「自身のミッション完了(IPO達成など)による新たな挑戦」といった、前向きかつ納得感のある理由を記載します。
また、役員は企業の機密情報に深く関わっているため、職務経歴書における守秘義務への配慮は必須です。具体的な顧客名や未公開の技術情報などを安易に記載すると、コンプライアンス意識や口の堅さを疑われてしまいます。社名や数値は公開されている範囲に留めるか、「大手通信会社」「数億円規模」のように適度にぼかす配慮を見せることも、経営層として信頼されるための重要なマナーです。





