個人事業主から企業へ!職務経歴書の書き方とアピール戦略
個人事業主の経験は「経営視点」と「実務能力」の証明になります
個人事業主やフリーランスとして活動した経験を持つ方が、再び企業への就職(再就職)を目指す際、職務経歴書の作成に頭を悩ませることは少なくありません。会社員とは異なり、決まった部署や役職がないため、どのように経歴を記載すればよいのか、また、組織に属さない働き方をしていたことがマイナス評価につながらないかと不安に感じることもあるでしょう。しかし、自らの力で事業を営んできた経験は、ビジネスパーソンとして非常に価値の高いキャリアです。
採用担当者は、個人事業主としての経験を通じて、応募者がどのような専門スキルを持ち、どれだけの成果を上げてきたか、そして「経営的な視点」を持っているかどうかに注目しています。営業から実務、経理、税務に至るまでを一人でこなしてきた経験は、マルチタスク能力やコスト意識の高さを示す強力な武器となります。職務経歴書では、この独自性を適切なビジネス用語で表現し、企業組織の中でも即戦力として活躍できる人材であることを証明する必要があります。ここでは、個人事業主ならではの職務経歴書の書き方と、効果的なアピール戦略について解説します。
「開業」「廃業」など適切な用語と屋号の記載ルール
職務経歴書を作成する際、まず注意すべきなのは用語の選び方です。会社員であれば「入社」「退社」を使いますが、個人事業主の場合はこれらの言葉は適切ではありません。事業を開始したタイミングには「開業」、終了して就職活動をするタイミングには「廃業」または「事業終了」という言葉を使います。
具体的な書き方としては、職歴の時系列の中に「個人事業主として開業」と記載し、屋号(店名や事務所名)がある場合は「屋号:〇〇デザイン」のように併記します。これにより、どのような事業形態であったかが明確になります。また、現在も事業を継続中で、副業として続けたい場合は「現在に至る」とし、完全に事業を畳んで入社する場合は「一身上の都合により廃業」と記載します。青色申告を行っていた場合などは、「青色申告専従者として従事」といった表現も可能です。正しい用語を使うことは、ビジネスの基本構造を理解していることのアピールにもつながります。
事業内容と実績を数値で示しビジネススキルを可視化する
個人事業主の経歴において最も重要なのは、具体的にどのような事業を行い、どのような成果を上げたかを客観的に伝えることです。単に「Web制作を行っていました」だけでは、趣味の延長なのか、プロフェッショナルなビジネスなのかが判別できません。
職務経歴書の詳細欄には、以下の要素を盛り込んで記述します。
- 事業概要: 誰に(法人・個人)、何を(商品・サービス)、どのように(手法)提供していたか。
- 取引実績: 主要な取引先企業(守秘義務に配慮しつつ、業界や規模感を記載)、取引社数。
- 数値成果: 年商規模、月間売上、リピート率、制作件数、PV数などの具体的な数字。
例えば、「法人クライアントを中心にWebサイト制作を受託し、年間20件のプロジェクトを完遂。営業から要件定義、実装までを一貫して担当し、顧客の売上昨対比120パーセント達成に貢献」といった記述です。数字とプロセスを明記することで、ビジネスとして成立させていた実力と、課題解決能力の高さを証明できます。
「何でも屋」と思わせないための専門性と強みの絞り込み
個人事業主は一人で全ての業務を行うため、職務経歴書に「あれもこれもできます」と書きすぎてしまう傾向があります。しかし、あまりに多岐にわたる業務を羅列すると、「結局何が専門なのか分からない」「器用貧乏」という印象を与えてしまうリスクがあります。企業への転職を目指す場合は、応募する職種に関連性の高いスキルに焦点を絞ってアピールすることが重要です。
例えば、営業職に応募するのであれば、個人事業主時代の「新規開拓営業」や「顧客折衝」、「契約交渉」の経験を重点的に記述し、経理や事務作業の詳細は簡潔にまとめます。逆に事務職や経理職に応募するのであれば、「日々の帳簿付け」や「確定申告業務」、「請求書管理」などの正確性と事務処理能力を強調します。相手企業が求めている「専門性」に合わせて、自身の経験の中から最適なカードを切る(情報を取捨選択する)編集能力が求められます。
再就職の理由をポジティブなストーリーに変換する
採用担当者が元個人事業主に対して抱く最大の懸念は、「なぜまた会社員に戻るのか」という点です。「事業がうまくいかなかったから」というネガティブな理由だけでは、「また独立してしまうのではないか」「組織に馴染めないのではないか」と疑われてしまいます。この懸念を払拭するためには、再就職の理由をポジティブなキャリアアップのストーリーとして伝える必要があります。
「個人での活動を通じて、チームで大規模なプロジェクトに取り組む重要性を再認識しました」や、「自身の専門スキルを、より大きな組織のリソースを活用して社会に還元したいと考えました」といった前向きな動機を記述します。個人事業主としての限界を感じたからこそ、組織の力を借りたいという論理構成にすることで、会社員として働くことへの納得感と、高い定着意欲を示すことができます。
組織適応力と協調性を自己PRで補足し懸念を払拭する
最後に、自己PR欄を活用して「組織適応力」をアピールします。個人事業主は「一匹狼」と思われがちですが、実際にはクライアントや外部パートナーとの連携が不可欠な仕事です。社外の多様な関係者と円滑にコミュニケーションを取り、信頼関係を構築してきた実績は、組織内での協調性にも通じます。
「クライアントの要望を汲み取り、納期を厳守する責任感」や「外部パートナーとチームを組んでプロジェクトを推進した経験」などを記述し、独りよがりにならず周囲と協力して成果を出せる人材であることを強調してください。個人事業主ならではの「自律的に動く力(主体性)」と、組織人としての「協調性」をバランスよくアピールすることで、企業にとって得難い即戦力人材としての評価を獲得することができます。





