会計事務所の書類選考を突破する職務経歴書の書き方とアピール戦略
会計事務所の採用担当者が重視する実務経験の具体化
会計事務所や税理士法人の転職市場において、職務経歴書は採用の合否を決定づける極めて重要な書類です。一般企業の経理職とは異なり、会計事務所では複数のクライアントを担当し、税務申告や決算業務、経営相談などを並行して進める高度な処理能力が求められます。そのため、採用担当者は職務経歴書を通じて、応募者がどの程度の実務経験を持ち、即戦力としてどのくらいの業務量をこなせるかをシビアに判断しています。
単に会計事務所勤務と記載するだけでは、記帳代行がメインだったのか、高度な税務判断を伴う申告業務まで行っていたのかが伝わりません。ご自身の経験を正確に評価してもらうためには、担当していた業務のフェーズや難易度、クライアントとの関わり方を詳細に棚卸しし、可視化する必要があります。ここでは、会計事務所経験者がキャリアアップを目指す場合や、未経験から挑戦する場合の、効果的な職務経歴書の書き方について解説します。
担当件数とクライアントの規模を数値で記載する
会計事務所の実務能力を測る上で最も分かりやすい指標は、担当していたクライアントの件数とその規模感です。職務経歴書の業務内容欄には、法人と個人の担当件数をそれぞれ数値で明記します。例えば、法人担当20社、個人確定申告担当50件といった具体的な数字です。これにより、採用担当者はあなたがどの程度の業務ボリュームを処理できるキャパシティを持っているかを判断できます。
また、担当していたクライアントの年商規模や業種についても触れておくと効果的です。年商10億円規模の製造業から、個人経営の飲食店まで幅広く担当といった記述や、医療法人に特化した税務会計を担当といった専門性を示す記述は、マッチング精度を高める要因となります。クライアントの規模によって求められる税務処理の複雑さは異なるため、ご自身が対応可能なレベル感を客観的なデータとして提示することが重要です。
使用可能な会計ソフトと申告ソフトを明記して即戦力を示す
会計事務所の業務において、会計ソフトや税務申告ソフトの操作スキルは必須です。事務所によって導入しているシステムは異なりますが(TKC、JDL、ミロク、弥生会計、freee、マネーフォワードなど)、使用経験のあるソフト名を具体的に記載することで、新しい環境への適応力をアピールできます。特に、応募先の事務所と同じソフトを使用した経験があれば、操作研修の手間が省けるため、即戦力として高く評価されます。
記載する際は、単にソフト名を列挙するだけでなく、入力レベルなのか、設定や導入支援まで行えるレベルなのかを補足します。近年ではクラウド会計ソフトの導入支援や、FinTechを活用した業務効率化のニーズも高まっているため、これらの経験があればITスキルが高い人材として差別化を図ることができます。Excelスキルについても、VLOOKUP関数やピボットテーブルの使用可否などを記載し、事務処理能力の高さを証明してください。
税務申告業務の経験範囲と税目を詳細に記述する
経験者採用の場合、どの税目の申告業務に携わってきたかは重要な確認事項です。法人税、消費税、所得税、相続税・贈与税など、経験のある税目を明確にします。また、それぞれの業務において、補助的な入力作業だったのか、申告書の作成から検算、電子申告までを一人で完結できていたのかという担当範囲(自己完結能力)を記述します。
特に、相続税や組織再編税制、連結納税などの高度な税務実務の経験がある場合は、強力なアピール材料となるため、別項目を設けて詳細に記載することをお勧めします。年末調整や法定調書作成、償却資産税申告などの定例業務についても、担当した件数や規模感を添えて記載することで、繁忙期の戦力として期待を持たせることができます。
コンサルティング業務や巡回監査の実績で差別化を図る
近年、多くの会計事務所が記帳代行や申告業務だけでなく、付加価値の高い経営コンサルティング業務に力を入れています。そのため、数字を作る作業だけでなく、数字を使って経営者を支援した実績があれば、職務経歴書で強調すべきです。月次巡回監査において経営者とどのような対話を行い、どのような提案(節税対策、資金繰り支援、経営計画策定など)を行ってきたかを具体的なエピソードとともに記述します。
例えば、資金繰りが悪化していたクライアントに対し、融資のサポートと経費削減の提案を行い、黒字転換に貢献したといった実績は、コンサルティング能力とコミュニケーション能力の証明になります。単なる事務作業員ではなく、経営者のパートナーとして信頼関係を構築できる人材であることをアピールすることで、より待遇の良いポジションへの転職が可能になります。
未経験者の場合は簿記資格とポータブルスキルを強調する
異業種から未経験で会計事務所を目指す場合、実務経験がないため、まずは日商簿記2級以上の資格や、経理の実務経験がアピールポイントになります。職務経歴書では、前職での経験の中から、会計事務所でも活かせるポータブルスキル(持ち運び可能なスキル)を抽出して記載します。
例えば、営業職であれば顧客との信頼関係構築力や提案力、事務職であれば正確でスピーディーな処理能力やPCスキルが該当します。また、金融機関での勤務経験や、不動産業界での経験などは、税務との親和性が高いため評価されやすい傾向にあります。自己PR欄では、なぜ会計業界を目指すのかという熱意とともに、未経験であっても早期に知識を習得し、事務所に貢献したいという学習意欲の高さを伝えてください。
税理士試験の科目合格や勉強状況を記載して意欲を伝える
会計事務所の採用においては、税理士資格の有無や科目合格数も重要な評価基準です。科目合格がある場合は、資格欄だけでなく職務経歴書の冒頭や自己PR欄でも触れ、専門知識の裏付けとします。現在勉強中の場合も、受験予定の科目や学習状況(専門学校通学中など)を記載することで、向上心を示すことができます。
ただし、勉強中であることをアピールしすぎると、仕事よりも勉強を優先するのではないかと懸念される場合もあります。あくまで業務を最優先としつつ、自己研鑽として資格取得を目指しているというスタンスを示すことが大切です。実務と学習の両輪で成長していける人材であることをアピールしてください。
正確で読みやすいレイアウトが実務能力の証明になる
最後に、職務経歴書自体の完成度にもこだわります。会計事務所は、数字や文字を正確に扱うことが求められる職場です。そのため、職務経歴書に誤字脱字があったり、数字の桁が間違っていたり、レイアウトが乱れていたりすると、実務能力に疑問を持たれてしまう可能性があります。
読みやすいフォントや行間を意識し、情報を整理してA4用紙2枚程度にまとめます。表形式を活用して担当実績を見やすくするなどの工夫も有効です。細部まで配慮が行き届いた美しい職務経歴書を作成すること自体が、会計事務所スタッフとしての適性と、仕事への丁寧さを証明する最大のプレゼンテーションとなります。





