起業経験を最強の武器に変える履歴書職歴欄の書き方とアピール戦略
起業の経験は書き方次第で「経営者視点を持つ人材」という高評価になります
かつて起業を経験し、現在は再び会社員として転職活動を行おうとしている方にとって、履歴書の職歴欄をどう書くかは大きな悩みどころです。「起業に失敗して戻ってきたと思われないか」「組織に馴染めない一匹狼だと思われないか」といった不安を感じるかもしれません。しかし、ビジネス環境が変化の激しい現代において、自らリスクを取って事業を立ち上げた経験は、何物にも代えがたい貴重なキャリアです。
採用担当者が懸念するのは「失敗」そのものではなく、「なぜ会社員に戻るのかという理由の曖昧さ」や「組織で協調して働けるか」という点です。履歴書の職歴欄で、事業の内容や規模、そして得られた経験を適切な言葉で表現できれば、単なる労働者ではなく「経営者視点を持った即戦力」として高く評価されます。ここでは、個人事業主と法人設立それぞれのケースにおける正しい書き方と、ネガティブな印象を与えずにアピールするためのテクニックについて解説します。
個人事業主と法人設立で異なる「開業」「設立」の用語を使い分ける
起業の形態によって、履歴書で使用すべき用語は異なります。ここを間違えると、ビジネスの基礎知識を疑われてしまうため注意が必要です。
【個人事業主(フリーランス)の場合】
個人事業主として活動していた場合は、「開業」と「廃業」という言葉を使います。
- 「平成〇年〇月 個人事業主として開業(屋号:〇〇デザイン)」
- 「令和〇年〇月 一身上の都合により廃業」屋号がある場合はカッコ書きで記載し、どのような事業を行っていたかを明記します。
【法人を設立した場合】
株式会社や合同会社などを設立していた場合は、「設立」という言葉を使い、自身の役職も記載します。
- 「平成〇年〇月 株式会社〇〇 設立 代表取締役に就任」会社をたたんで転職する場合は「解散」や「清算結了」といった言葉を使いますが、事業自体は継続しつつ自分だけが退く場合は「取締役を退任」や「辞任」と記載します。倒産などのネガティブな事情がない限り、「会社解散により退任」などが事実に基づいた記載となります。
事業内容と実績を数値で示しビジネススキルを証明する
「開業」「設立」の一行だけでは、あなたが何をしてきたのかが全く伝わりません。起業経験者は、営業から経理、実務まで全てを一人(または少人数)でこなしてきたはずです。そのマルチタスク能力や行動力を伝えるために、職歴欄の行間を活用して具体的な事業内容を補足します。
例えば、「Web制作事業を展開し、3年間で計50社のクライアントを開拓。年商〇〇万円規模まで拡大」といった記述です。売上規模や取引先数、従業員を雇っていた場合はその人数などを数値で示すことで、ビジネスの規模感を客観的に伝えることができます。これにより、単に夢を追っていただけでなく、実利を生み出すビジネス活動を行っていたことを証明でき、即戦力としての説得力が増します。
「代表」という肩書きが与える威圧感を和らげる工夫
法人化していた場合、役職は「代表取締役」となりますが、この肩書きが一般企業の採用担当者に「使いにくい」「プライドが高そう」という威圧感を与えてしまうことがあります。特に、現場のいち担当者としての採用を目指す場合、この懸念は書類選考通過のハードルとなります。
これを防ぐためには、履歴書では事実として役職を記載しつつ、職務経歴書や自己PR欄で「プレイングマネージャーとして現場業務に邁進していた」ことを強調します。また、履歴書の本人希望記入欄や備考欄を活用し、「起業経験を通じて、組織の力とチームワークの重要性を再認識しました。今後は御社の一員として、経営者視点を持ちつつ、現場業務に貢献したいと考えております」といった謙虚な姿勢を示すメッセージを添えることも有効な戦略です。
現在も事業継続中(副業)の場合の書き方と注意点
自分の事業を完全に畳むのではなく、副業として継続しながら会社員に戻るケースもあります。その場合、職歴欄の最後は「現在に至る」となりますが、それだけでは「入社後も自分の事業ばかり優先するのではないか」と疑われてしまいます。
この懸念を払拭するためには、「現在に至る(※入社後は業務時間外の活動とし、御社の業務に支障はきたしません)」や「(※現在は事業活動を休止中)」といった補足を入れることが重要です。副業を認めている企業であっても、本業へのコミットメントを最優先することは採用の絶対条件です。どの程度のバランスで関わっていく予定なのかを明記することで、採用担当者に安心感を与えることができます。
「再就職」の理由をポジティブなストーリーにする
起業から会社員への転職において、採用担当者が最も知りたいのは「なぜまた会社員に戻るのか」という理由です。履歴書の段階では詳細に書くスペースはありませんが、職歴欄の退任理由や自己PR欄を通じて、その理由が「逃げ」ではなく「前向きな選択」であることを匂わせておく必要があります。
例えば、「より大きな規模のプロジェクトに携わりたいと考え、事業を譲渡し再就職を決意」や、「自身の専門スキルを特定の領域で深めるため、組織でのキャリア形成を希望」といったストーリーです。起業という得難い経験をしたからこそ、組織で働くことの価値を誰よりも理解している、というスタンスを示すことができれば、起業経験はネガティブ要素ではなく、他の候補者にはない圧倒的な強みへと変わります。





