病院への転職を目指す際、履歴書の「志望動機」は採用の合否を分ける極めて重要な項目です。

「家から近いから」「給与が良いから」といった本音はあるものの、それだけでは採用担当者の心を動かすことはできません。病院側は、あなたがその病院の役割を理解しているか、そして患者様やスタッフと良好な関係を築ける人物かどうかを厳しく見ています。

この記事では、病院の採用担当者が重視するポイントを押さえ、職種や病院の規模別に「会ってみたい」と思わせる志望動機の書き方と例文を解説します。

病院の採用担当者が志望動機でチェックする「3つの視点」

病院やクリニックの採用担当者が、数ある応募書類の中からあなたを選ぶかどうかは、以下の3点が明確に書かれているかどうかにかかっています。

1. 「なぜ当院なのか」という独自の理由

「地域医療に貢献したい」「患者様に寄り添いたい」といった理由は立派ですが、どの病院でも通用する内容になりがちです。

その病院が**「急性期」なのか「療養型」なのか、あるいは「特定の疾患に強い」のか**。病院ごとの機能や理念（Webサイトの「院長挨拶」や「理念」ページは必読です）をリサーチし、その特徴に共感したことを伝える必要があります。

2. 即戦力となる「経験・スキル」または「適性」

医療現場はチームプレーです。

• 経験者の場合： これまでの実務経験が、その病院でどう活かせるか（例：循環器の経験を活かして救急対応に貢献したい）。
• 未経験者の場合： 前職で培った「接遇スキル（患者対応）」や「事務処理能力（正確性）」など、医療現場でも通じるポータブルスキル。

3. 長く働ける「定着性」と「覚悟」

医療現場は激務になることも多く、早期離職は病院にとって大きなリスクです。「大変なこともあると理解した上で、それでもここで働きたい」という覚悟や、キャリアビジョン（将来どうなりたいか）が見える内容は、安心感を与えます。

【職種別】病院への志望動機 例文集

1. 医療事務・クラーク（未経験から挑戦）

ポイント： 接客経験や事務処理の正確さを、患者様への安心感につなげます。

【例文】

前職ではホテルのフロントスタッフとして3年間、お客様一人ひとりの状況に合わせたきめ細やかな対応を心がけてまいりました。その中で、体調が優れないお客様への対応をした際に感謝のお言葉をいただき、接客スキルを活かして医療の現場で患者様の心の支えになりたいと考えるようになりました。

貴院の「地域住民の健康を親身にサポートする」という理念と、患者様への温かい接遇に深く共感しております。未経験ではありますが、前職で培ったホスピタリティと正確な事務処理能力を活かし、患者様が安心して来院できる環境づくりに貢献したいと強く志望しております。

2. 看護師（総合病院から地域密着型病院へ）

ポイント： 「忙しいのが嫌だ」ではなく、「より一人ひとりと向き合いたい」というポジティブな転換が必要です。

【例文】

前職では大学病院の急性期病棟にて5年間勤務し、迅速な処置や重症患者様の全身管理などのスキルを磨いてまいりました。多忙な業務の中でやりがいを感じる一方、退院後の患者様の生活や、慢性疾患を持つ患者様の長期的なケアにもっと深く寄り添いたいという思いが強くなりました。

貴院は地域のかかりつけ医として、患者様との対話を重視した診療を行われており、その方針に惹かれ志望いたしました。急性期で培ったアセスメント能力を活かしつつ、患者様が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、生活に寄り添った看護を提供したいと考えております。

3. 看護助手・看護補助者（異業種から挑戦）

ポイント： 医療資格がなくても、チームの一員として貢献したい意欲と体力をアピールします。

【例文】

以前、家族が入院した際に、看護助手の方が優しく声をかけてくださり、不安な気持ちが和らいだ経験から、私も医療現場を支える仕事がしたいと強く思うようになりました。

貴院は地域医療の中核を担っており、チーム医療を大切にされている点に魅力を感じております。前職の飲食店勤務で培った体力と、周囲を見て動く協調性には自信があります。看護師の方々が看護業務に専念できるようサポートし、患者様にとって快適な療養環境を提供できるよう尽力いたします。

【病院の機能別】書き分けのポイント

応募する病院のタイプによって、刺さるキーワードは異なります。

急性期病院・大学病院の場合

• キーワード： スキルアップ、最先端医療、専門性、スピード感、救急対応
• アピール： 「より高度な医療を学びたい」「多くの症例に触れ、専門性を高めて貢献したい」という向上心を前面に出します。

療養型病院・リハビリテーション病院の場合

• キーワード： 在宅復帰、QOL（生活の質）向上、じっくり向き合う、ご家族への支援
• アピール： 「治療だけでなく、その後の生活を支えたい」「患者様の『できるようになった』を共に喜びたい」という寄り添う姿勢を強調します。

クリニック・診療所の場合

• キーワード： 地域密着、かかりつけ医、接遇、マルチタスク
• アピール： 「地域の方々の健康を長く支えたい」「少人数だからこそ、職種の垣根を超えて協力したい」という協調性を伝えます。

病院の志望動機で避けるべきNG表現

1. 「家から近い」「給料が良い」をメインにする

これらは重要な条件ですが、志望動機の中心に据えると「条件さえ合えばどこでもいいのか」と思われます。「地域に根ざして長く働きたい」など、ポジティブな表現に変換し、あくまで補足要素として添えましょう。

2. 「勉強させてほしい」という受け身の姿勢

特に未経験の方に多いですが、病院は学校ではありません。「貴院の教育体制が整っているため」という理由は、「整った環境で早期に業務を習得し、戦力になりたい」という貢献意欲に変換してください。

3. 敬称の間違い

一般企業は「貴社」ですが、病院の場合は**「貴院（きいん）」**と書くのがマナーです（法人全体を指す場合は「貴法人」など）。面接（話し言葉）では「御院（おんいん）」となります。基本的なマナーができているかも、採用担当者は見ています。

病院への転職は、資格や経験だけでなく「思い」のマッチングが重要です。

その病院が大切にしていることと、あなたが大切にしたいことが重なる部分を見つけ、自分の言葉で誠実に伝えることが、採用への近道となります。

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人材会社で15年間、転職・中途採用市場における営業職・企画職・調査職の仕事を経験。
社団法人人材サービス産業協議会「転職賃金相場」研究会の元メンバー
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