履歴書と「前科」。賞罰欄の正しい書き方と告知義務
履歴書の「賞罰」欄とは何か
履歴書の様式(フォーマット)によっては、「賞罰(しょうばつ)」という欄が設けられていることがあります。これは、応募者の経歴に関する重要な情報を確認するための項目です。「賞罰」とは、文字通り「賞(しょう)」と「罰(ばつ)」の二つの意味を持ちます。
「賞」とは、主に公的な受賞歴(例:全国大会での優勝、国や都道府県からの表彰など)を指します。
そして「罰」とは、**「刑事罰を受けた経歴(=前科)」**を指します。
採用担当者は、この欄から応募者の「信頼性」や「社会的な規範意識」を確認しようとしています。
記載すべき「罰(前科)」の正確な定義
履歴書の「賞罰」欄に記載すべき「罰」とは、法律上の「刑事罰(けいじばつ)」として有罪判決が確定したものを指します。
具体的には、裁判で有罪判決が確定した、以下の刑罰が該当します。
- 懲役刑(ちょうえきけい)
- 禁錮刑(きんこけい)
- 罰金刑(ばっきんけい)
執行猶予(しっこうゆうよ)は「罰」に含まれるか
「執行猶予がついたから、刑務所には入っていないので書かなくて良い」と考えるのは間違いです。
執行猶予付きの判決であっても、裁判で「有罪」の判決が下されたことに変わりはありません。したがって、これも「罰(前科)」として、記載義務が発生します。
記載する必要が「ない」罰とは
「罰」の定義があいまいで、記載すべきか迷うケースについて整理します。
交通違反(スピード違反、駐車違反など)
スピード違反や駐車違反などで支払う「反則金(青キップ)」は、刑事罰ではなく「行政罰(ぎょうせいばつ)」にあたるため、原則として「罰」には該当しません。したがって、記載の必要はありません。
ただし、飲酒運転や重大な人身事故、あるいは反則金を支払わず「赤キップ」を切られ、裁判で「罰金刑」や「懲役刑」が確定した場合は、「刑事罰(前科)」となるため、記載義務が発生します。
逮捕されたが、不起訴になった(前歴)
逮捕されたり、警察の捜査対象になったりした事実は「前歴(ぜんれき)」と呼ばれます。
「前歴」は、裁判で有罪判決が確定した「前科」とは明確に区別されます。「罰」には該当しないため、履歴書に書く必要はありません。
少年時代の非行
少年法に基づき、少年(20歳未満)の時の非行歴などは、その後の更生を妨げないよう保護されています。これらは「罰(前科)」とは異なるため、履歴書への記載は不要です。
「賞罰」欄への具体的な書き方
履歴書に「賞罰」欄がある場合、どのように記載するのが正しいのでしょうか。
パターン1:賞も罰も「ない」場合(最も一般的なケース)
これが、大多数の応募者にあてはまるケースです。
この場合、空欄にせず、必ず「ない」という事実を明記する必要があります。
(書き方)
賞罰
なし
(※「特になし」でも間違いではありませんが、「なし」と簡潔に記載するのが一般的です)
パターン2:「罰(犯罪歴)」が「ある」場合
もし、先に述べた「刑事罰(前科)」に該当する事実がある場合は、正直に記載する必要があります。
(書き方)
賞罰
なし
(※「罰」がある場合は、「賞」について「なし」と記載した後、行を改めて「罰」の内容を記載します)
(記載例:懲役・執行猶予の場合)
賞罰
賞 なし
罰 〇〇年〇月 〇〇罪により 懲役〇年 執行猶予〇年
(記載例:罰金刑の場合)
賞罰
賞 なし
罰 〇〇年〇月 〇〇(罪状)により 罰金刑
もし「前科」を隠した場合の重大なリスク
これが、この問題における最大のポイントです。
「書いて不利になるくらいなら、書かずに隠しておきたい」と考えるのは自然な心理かもしれません。しかし、その行為(賞罰欄に「なし」と嘘を書くこと)には、あまりにも大きなリスクが伴います。
発覚した場合、「経歴詐称」として懲戒解雇になる
もし、犯罪歴を隠して(賞罰欄に「なし」と記載して)入社した場合、それが後から発覚すると、**「経歴詐称(けいれきさしょう)」**という重大な契約違反にあたります。
「経歴詐称」は、応募者の信頼性を根本から覆す行為です。
多くの企業の就業規則では、経歴詐称は「懲戒解雇(ちょうかいかいこ)」という、最も重い処分の対象と定められています。
賞罰欄が「ない」履歴書の場合
近年、厚生労働省が推奨する様式など、最初から「賞罰」欄が設けられていない履歴書も増えています。その場合は、応募書類に記載する必要はありません。
面接で質問された場合の「告知義務」
ただし、賞罰欄がない履歴書を使った場合でも、面接の場などで、採用担当者から「賞罰(犯罪歴)はありますか?」と口頭で質問される可能性があります。
その際、もし該当する事実があるにも関わらず「ありません」と嘘をついた場合、それも「経歴詐称」にあたります。
刑の消滅(けいのしょうめつ)について
法律上、刑の執行が終わってから一定期間(罰金刑なら5年、執行猶予期間の満了から5年など)、再び罰金以上の刑を受けずに過ごした場合、「刑が消滅」し、法的な記載義務がなくなるという考え方もあります。
しかし、企業側の就業規則との兼ね合いもあり、ご自身で「もう時効だから大丈夫」と安易に判断するのは非常に危険です。
「経歴詐称」のリスクを完全に回避するという観点では、誠実に申告する方が安全な場合もあります。
結論。「賞罰」欄には、誠実に向き合う
履歴書の「賞罰」欄は、大多数の人は「なし」と記載する項目です。
しかし、もし「罰」に該当する事実がある場合は、その事実を隠して「なし」と嘘を書くことは、「経歴詐称」という重大なリスクを負う行為です。
一時的な不利益を恐れて嘘をついた結果、入社後に全てを失う(職歴に「懲戒解雇」という傷がつく)可能性もあります。
履歴書には、必ず「誠実」かつ「正確」な情報を記載するよう、徹底しましょう。





